幻の対談 第三弾『自画像』

幻の対談 第三弾『自画像』

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間近に迫った地下空港オリジナル新作舞台『幻のセールスマン』。
作品の中核となる人物たちを照らし出す特別企画、「幻の対談」も三回目を迎え、
いよいよ最終回となりました。


最後を飾るのは、主宰・伊藤靖朗。
七年間という長い歳月をかけて想い続けてきた『幻のセールスマン』について、
また地下空港の存在、そして劇をやることの意味について、
その思いを、二人の俳優とともに語ります。
(聞き手:今村洋一、横山大地)


<幻 の 対 談  第 一 回  『 対 決 』 > はこちらから


<幻 の 対 談  第 二 回  『 遠 出 』 > はこちらから



ー劇を通して社会と向かい合う。そして人を楽しませる。

今 まず初めに、地下空港を立ち上げたきっかけを教えて下さい。
ヤ 大学に入ってから学内のミュージカル公演にエキストラで参加したのがほぼ初舞台だったんですが、その時に、自分で演出
  したい!と強く思ったのがきっかけですね。それから初めて脚本というものを書き、仲間を募って地下空港を立ち上げ、
  自らプロデュースするようになりました。
大 そうだったんだ!脚本を書く動機のようなものはあったんですか?
ヤ 中学生の時、静岡県静岡市の代表として、カナダのアルバータ州エドモントン市に派遣されたのですが、当時の僕はそこで
  衝撃を受けたんです。自立した個人による市民社会のモデルだなと強く思ったんですね。
大 それは、具体的にはどんなところですか?
ヤ 例えば、むこうの小中学校に体験入学させて頂いたのですが、その学校内の売店でお菓子を売っている!なのに、授業中に
  誰もお菓子を食べていない!!とか。
今 へぇ、それは違いますね。校則とかじゃなくてってことですよね。
ヤ そう。それに、小学校から選択制授業だったことにも驚いた。小学1年生から、自分の道を選んでゆかないとならない。
  だから皆、自分の中にあるルールに各々が従う具合。これは日本の学校と全然違うぞ、と。
大 確かに。
ヤ だから、向こうに行って衝撃、日本に帰ってきてまた衝撃でした。自分の視点が、社会を外側から見つめるようになった。
今 それが表現活動をする動機に?
ヤ そう。だから僕が劇をやる上で求めることの一つに、社会に何らかのメッセージを問いかけたい、ということがあります。
  それと共に、人を楽しませたいっていう欲望とを両立できるものが劇であり、地下空港なんだと思います。


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ー絶望が希望に変わるのを書きたいと思うようになった。

今 なるほど。じゃあ始めた頃に比べて、地下空港はどんな風に変わってきましたか?
ヤ まず、近年の大きな変化として、脚本の中で描き、伝えたいものが自分の中で変わってきました。地下空港を始めた当初から、
  人間が社会と対峙する中での絶望や苦悩を描くということに変わりはないのですが、時間の経過を経て、その絶望から希望への
  転換を書きたい、書かなければいけないと思うようになった。
大 前作『OLと魔王』は初めてのコメディーでしたね。
ヤ そう、脚本の内容の変化に伴って、劇のスタイルも、写実的な悲劇から、より戯画的な喜劇あるいは悲喜劇というもの
  になってきている。『OLと魔王』は特にコメディー色の強い作品で、“笑いが70%、メッセージが30%”ぐらいの割合
  だったけど、以前のシリアスな作品よりも、笑いが架け橋になって逆にお客様にメッセージが届いたような感触があって、
  それはとても大きな発見でしたね。
今 それは役者たちも強く感じました。そういった変化を促したものはなんだったんですか?
ヤ やはり自分自身が、そのような絶望から希望への転換ということを体験したことが大きいと思います。地下空港の活動を続ける
  中で、洋一、大地を始め、自分にとってとても大きな出会いがあり、その人たちとの“関係”の中に希望を見つけ出すことが
  できた。絶望もリアルだけれど、同じくらい希望もリアルなものだと。人々の間にはまだたくさんの秘密が隠されていて、
  絶望するにはまだ早すぎる。それを信じて、その可能性を広めていきたいと、今は強く思っています。

大 そんな変化の中で、『幻のセールスマン』は七年間あたためられた作品なんですよね。
ヤ 初めにこの芝居を書こうと思い立ってから七年間もそれを形にすることが出来なかった。それはまさに今話したことが関係
  していて、自分の心が抱えるもの、苦しみという“謎”を解き明かすだけの眼力を僕が持っていなかったからなんだと思います。
  でもそういう苦悩がある一方でたくさんの大切な出会いがあり、なんとかここまで進んで来られた。
今 『幻のセールスマン』は靖朗さんの20代最後の作品ですね。
ヤ そうですね。一つの壮大な物語であると同時に、僕自身の「自画像」でもあります。この作品が、地下空港にとっても僕自身に
  とっても大きな転機となり、一つの記念碑的なものになると感じています。
大 では最後に、お越しいただくお客様に一言メッセージをどうぞ!
ヤ 構想7年の渾身作です。皆様どうぞ、宜しくお願い申し上げます!!
今・大 ありがとうございました!


伊藤靖朗が七年という長い時間をかけて自分と、
そして人々と向き合い生まれた『幻のセールスマン』。
そんな彼の「自画像」とも言えるこの作品は、また同時に
観て頂くお客様にとっての「自画像」にもなり得るのかもしれません。

皆様是非!この渾身の新作を、劇場にてご覧下さいませ!!



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主宰  伊藤靖朗
聞き手 今村洋一(俳優)
    横山大地(同)
写真  かとうちなつ


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